ピーテル・アールツェンについて
特別目新しい話でもないが、私たちが知る中世がその時代を離れた作家、学者の手によって想像され、作られたイメージであること。そのことは良くも悪くも一般的である。
例えば中世ファンタジーと呼ばれるジャンルで良く見られるのは大きな城に石造りの都市、沢山の物が並ぶ露天の市、正しくないわけではないがだからといって中世という広い時代区分の中で普遍的というわけではないものを切り取って提示されたものを私たちはごく当たり前に享受している。
それに反旗を翻すのはピーテル・アールツェンという実際にその時代に生きた人間のイメージだ。中世と近世の間に生み出されたこのヨーロッパ画家の作品に感じるのは現代とは隔絶された時代の薫りである。
画面いっぱいに加工された肉塊は雑多に組み合わされているようで一つ一つが力強い印象力を持っている。これは素晴らしい配色センスのおかげでもあるが、書かれている風景それ自体にも多大な貢献がある。
林の近くだろうか、野ざらしにされた牛や鳥の頭、肋の付いた巨大な肉を私たちは衛生法の観念からしてどこに行っても見ることは叶わない。商店街のどんなに古い肉屋にしてもこんな売り方はしないだろう。
この野性味に富んだ世界はただの幻想ではなく、アールツェンが見た当時の風俗を元にしている。そう考えると私たちは原始時代に戻らなくても野蛮性を省みることができるようだ。