アブラハム・ファン・ベイエレンについて
Photo by年老いたヤンキーと出会った
バロックは誇張された動き、凝った装飾の多用、強烈な光の対比のような劇的な効果、緊張、時として仰々しいまでの豊饒さや壮大さなどによって特徴づけられるが、もともと強調表現が行き過ぎて品位に欠ける歪なものという意味で使用されていた。
中央の煌びやかな光を受ける豪華なロブスターと果実たち。
それだけ見れば絢爛さをイメージするが、作品を構成する他の要素を見ていくと途端に本来のバロック的性質が垣間見える。食材が零れ落ちそうになっている小さすぎるテーブル、傾いた食器、そして何よりも肌寒さを感じさせる薄汚れた青のカーテンと窓から見える荒野。
貧乏人が高い時計やブランド品を持ってもそれは貧しさを強調するだけだし
老人が不良を気取っていばり散らしても無力を強調するだけだ。
同じく、食材が豪華でもそれを取り囲む環境が貧困をイメージさせるものなら
途端に堕落や野卑と云った体が漂う。
肌寒い風が流れ込んでくる荒野の家に、高価な食器や食材を並べた人間は
どのような性質を持っているのか考えるのも中々想像が掻き立てられるだろう。
アブラハムは他にも静物を描いているが、どれも旧来のバロック的要素が
垣間見える。特に魚介類の描写はなんとも言えない悲しげな風情を絵に
醸し出している。